僕は洋服にまったく興味がない。夏はTシャツとジーパンで過ごし、秋になるとTシャツの上にトレーナーを重ね着し、冬になるとさらにその上からジャンパーを着て過ごす。外見がどうだろうと、僕にとってはどうでもよかった。そんな僕が、原宿の竹下通りを歩いていたとき、見知らぬ男性から声をかけられた。片手にカメラを持った男性は、笑顔で名刺を差し出してきた。聞くと、メンズファッション雑誌でカメラマンの仕事をしているという。僕は思わず身構えた。
カメラマンが僕にいったい何の用だというのだ。男性カメラマンは、街の若者たちの服装を撮影し、メンズファッション雑誌に掲載しているらしい。竹下通りに立って、ファッションセンスの良い若者を見かけたら声をかけているのだそうだ。僕は自分で自分の服装を見まわし、「そんな馬鹿な」とつぶやいた。ヨレヨレの着古したTシャツに、穴だらけのジーンズ、そして泥汚れの目立つスニーカー。こんな格好のどこをどう見たら「ファッションセンスの良い若者」という評価になるのだろうか。僕はカメラマンの誘いを一度は断ったのだが、謝礼を出すという言葉につられ、仕方なくカメラの前でポーズをとることになった。
別れ際に住所を聞かれ、メンズファッション雑誌が完成したら送ってくれるという約束をした。数週間後、まったく忘れていたころに、完成した雑誌が送られてきた。雑誌を手に取り、僕は驚いてしまった。表紙に僕の写真が使われていたのである。この表紙をきっかけに、現在の僕は、さまざまなファッションショーで活躍できるようになった。すべてはあのカメラマンのおかげだ。感謝の言葉もない。